the day for 10years
10年の中の1日
休日の遅い時間に朝食を摂るためにロビーに隣接するティールームを兼用したダイニングの一画に腰
をおろす。
昨晩まで続いた目まぐるしい迄のこの4日間が朦朧とした頭の中でスライドしていく。
コーヒーを前に怠惰に煙草をくゆらす。
ふいに自分を含めた時間のすべてが速度を増す。
緩慢な自分の動きとは裏腹に周辺一帯がビデオの早回しの如くスピードを増していき、
まるで取り残されたように自分が歳をとっていく錯覚に囚われ恐怖感に駆られる。
「御疲れですね」
とマネージャーに声をかけられ、ふと我にかえる。
苦笑を返事とする。
(まぁそれもいいか)
痺れた頭の芯が弛緩していくように、それを受容したことを機に先程までの痛い程研ぎ澄まされた神経がもとのあるべき楽な場所に収束していくのを感じる。
さて、
このホテルに1ヶ月5日滞在するとして、一日で60日、約2ヶ月の生活の場。
十年で600日…
従業員はこの十年で何回転したんだろう。
…
ドレッドヘアでくだけた英語が笑いを誘うほどに堪能だった若い女性フロント。
「明日から徴兵です。」と辞めていった、滑稽と映るほど折り目の正しかったウェイター。
酔客に灰皿をなげつけられ、病院で頭を縫ったバーカウンターの女性バーテン。
大柄な外国人客から巨大な荷物をうけとる、超小柄なポーター。
ポパイの彼女ほど手足の長いウエイトレスは、どこで覚えたのか変な日本語をつかった。
…
…
まるで自分がこのホテルの一部になってしまったように感じる。
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